同業さんからの診断依頼、キーON状態でブロアモーターが常に勢いよく回りっ放しなアルテッツア(H.17 SXE10 84000km走行)もちろん、風量スイッチは全く役に立たず、常にHIに近い風量で風が吹き出している。
エアコンディショナアンプ本体(センターコンソール部液晶ディスプレイ&スイッチ部分)をAssy交換したが直らない。どこが悪いのかよくわからないとのことだったので、当社で診断を請け負うこととなった。
事前電話でのやり取りの中で、ブロアモーターコントローラーの確認したのかを聞くと、していないとのことだったので、早速、この部分から診断を行なうことにした。
実は依頼電話を受けたとき、一級シャシ編FET電子スイッチのPWM制御がすぐに頭に浮かんだ。一級の実技講習で風量調節不良のトラブルシュートを行なった記憶がある。お決まりの不具合箇所を特定するものだ。信号線に可変抵抗が仕込んであり、風量制御をアベコベにさせていた。その時の技術講師Hさんの顔とともにそれが浮かんだのだ。
その方は、かなりディープで我々と違いかなり非凡だ。まぁ、今回の件に関係はないが・・・。
それはさておき、ブロアモーターの風量コントロールについては、コントローラー(昔でいうレジスター)を介して行なっているのが一般的である。
下記がファイネスでダウンロードしたオートエアコンのシステム図である。
赤丸がコントローラー。
システム図から推測できることは、コントローラー自体はヒーター40Aヒューズ~HTRリレーを介して電源をとりモーターM+・M-を引き込んでいる。制御回路としては、エアコンアンプのBLW駆動信号線からの駆動信号でM-~GRD間をPower・MOS-FET(電界効果トランジスタ)介してマイナス側でPWM制御(パルス・ワイズ・モジュレーション)していると考えられる。M+側での制御も考えられるが、もしそうであれば、M-端子をコントローラーに引き込む意味はないと思う。たぶん・・・。
今回の事象から、考えられる不具合箇所は大きく3つ。
① ブロアモーターM-線の-側へのショート(GND線への線間ショート含む)
② コントローラー内部ショート
③ A/CアンプBLWからの信号不良・ハーネス線の不具合(断線・抵抗過大など)
こんなところだろうか。
さて、症状としては、常にHIに近い風量で回転しているので、ブロアモーターマイナス側のショートが一番疑わしい。もちろん、駆動信号線の断線や抵抗過大なども十分考えられる。
逆に、これらの中で一番確立の低いものはアンプからの駆動信号自体の不良。(すでに新品部品に交換している)
ちなみに、エンジン回転中、M+~M-のモーター作動電圧は13.6V、M-~GND間のPWM制御電圧は0.47V(平均電圧)であっる。約0.5Vほどの電圧降下があるので、最大風量よりわずかに弱いといったところか。
さぁどこから攻めるか・・・。
まぁ、この時点でかなり絞り込めているので、この場合どこからでもかまわないが、あえて一番確立の低い駆動信号から点検することにする。
駆動信号が正常かを点検すれば、ハーネスを含めた診断ができるし、ぐっと絞り込みができる。その後、モーターM-線のショート・線間ショートがなければ、コントローラーM-~GND間の内部ショートと確定できるという筋書きだ。
1.まずは駆動信号の点検。
キーONでBLWからの信号線SI端子電圧をデジタルテスターで測定。
風量ツマミをOFFから順次移動させた数値が以下である。
(PWMコントロールのため、数値は平均電圧)
OFF→12.35V AUTO→1.37V LO→9.12V
2→7.18V 3→4.73V HI→1.37V
上記の数値から駆動信号及び、ハーネスは正常と考えられる。
上記の数値から駆動信号及び、ハーネスは正常と考えられる。
※余談だが、コネクター開放状態ではBLWからの電圧自体が立ち上がってこなかったので、おそらくコントローラーから立ち上がった電圧をアンプ側で制御していると思われる。
2.モーターM-線のショートの点検
テスターでM-とボディーアース・GND間の線間ショートを点検したが導通なしで正常。ハーネス関係も本数が少なく、配線の取り回し上ボデーと接触する部分は皆無でショートするとは考え難い。
こなると不具合箇所はコントローラー本体ということになる。
おそらくM-~GND間の内部ショートだろう。(Power・MOS-FETショートの可能性が高い?)
同業さんには、「コントローラー不良です。新品は¥8000だそうです。そちらで交換しますか?」と伝えたら「はい。」とのことなのでこれで作業終了でもいいのだろうが、同業さんが引き取りにくるまでに、少し時間の余裕があったので、コントローラーを外し、単体点検をしてみた。
+B端子~M+端子はほぼ0Ω。やはり、プラス制御ではないようだ。
M-~GND端子はデジタルテスターで200数十~300数十kΩぐらい。
端子をいれかえて300数十MΩぐらい。
同じ部品の正常なものと比較しないと分からないのだが、FETに微弱な測定電流しかかからないにもかかわらず、この数値はたぶん内部破損していると思われる。
(私のテスターからは抵抗測定時 約0.6Vの電圧が出ています)
本来、パワードライブ系の大容量の半導体素子の導通測定にはアナログテスターの方が流れる電流量も多く適していると思う。
※パワードライブ系の大容量の半導体素子に限定します。ECU内部の回路にはアナログは使用しないでください。電流が大きく場合によっては素子が破壊されます。
色々と調べてみると、D(ドレイン)S(ソース)G(ゲート)間は端子を入れ替えてどれも∞Ωになるのが正常だそうだ。
G~Sに約3Vほどのゲート電圧を印加した場合にD~S間に導通があると書いてあった。あわせて、トランジスタ診断も基本的に同じ考えでよいと個人的には思う。
まぁ、よく考えてみれば当たり前な点検方法なのだが・・・。
※G側はコントローラー内部にあり、しかもシリコン樹脂で覆ってあるのでGから電圧をかけるのか不可能であり、D~S間しか測定しておりません。
ただ、ある資料にはPower・MOS-FETでドライブする場合、実際の回路ではサージ対策用にD~S間に寄生ダイオードが仕込んであり、測定時にダイオードのカソート側からテスターの電流が流れ込み、抵抗表示がされるとも書いてあった。なるほど・・・。これも考えてみれば当たり前の保護回路だ。
思い出したのだが、スズキ系のECU内部ISCドライブ用トランジスタも、テスター端子を入れ替えると若干の導通をしていたのはこのサージ対策用のダイオードの数値だったのだろうか?
次に、ダイオード測定モードを使用してD~S間を測定してみた。
D(+)~S(-)→1.774V D(-)~S(+)→0.444V
0.444Vはサージ対策用のダイオードの順方向電圧数値と分かるのだが、逆方向でオーバーレンジとならず、1.774Vは明らかにおかしい。
あくまで簡易的な点検であり、正確にはどこが悪いかわからないが、FETを含むモータードライブ回路の内部ショートで間違えないと思われた。
最近いつも思うのだが、私も含め整備士は本当に無知だと思う。
一級整備士の内容でも、電子系に対してはさわりだけであり、浅い知識でしかない。
整備士は、ECUの内部デバイスまでを診断することは必要とされないかもしれないが、電子系の基本的な知識をもう少し身につけないと、これからは整備士にとって本当に厳しい時代が来そうな予感がする。そう思わせた事例だった。
お詫び
たくさんのコメントいただいていたにも関わらず、返答もできずに申し訳ありませんでした。新しい会社立ち上げであまりに多忙ゆえ、気持ちに余裕がなくブログを開く気にもなれませんでした。
新スタッフの入社も決まり、少し心にゆとりができましたので、不定期ですが少しずつブロク更新をしていきたいと思います。
いたかめ師匠様へ
ご無沙汰しております。忙しさにかまけて甘えてしまい申し訳ございません。
近いうちそちらへお伺いいたします。